青い空 赤い嘘
17歳の春。
6畳の和室。
僕は携帯電話を手に取った。
外は晴れていたのを良く覚えている。
電話先は、梢ちゃんという女の子。
彼女は、その自身の余りのマシンガントークっぷりに現代の携帯電話の能力では彼女の話しを全て処理して相手に伝える事ができないくらいの早口。
そんなわけで、彼女の悩みは電話で話してても相手のリアクションが薄く、
聞いてるかどうか分からないというものだった。
梢は言う。「ねぇ、聞いてるの?いつもタカシは私の話しをいい加減に聞くんだから…。」「ちょっと待てよ、話しはちゃんと聞いてるけど、梢の話しが早すぎて携帯もオレの頭も何喋ってるか処理できねぇんだよ。悪気はないよ。」とタカシは言う。タカシの言うことは最もであり、何人たりとも梢のト-クは他の追随を寄せ付けない。しかし乙女心は難しいもの。特に今日の梢は月に一回の女のこの日で、ちょっぴりご機嫌斜め。「いつもタカシはそう…。本当は私のこと好きじゃないんでしょ…。」「ちがっ、」と言うタカシの言葉を遮り梢は続ける。怒りもピークに達し、口調も荒々しい。「いいから、聞いて。わたしは、あうぇsdrftgyふじこlp。」
みたいな感じ。
こんな風に最終的に肝心の部分が何を言ってるかよくわからないくらい早口。
実際に彼女がこんな上のようなやり取りをしたかどうかは不明だが、
高校時代に彼氏がいなかったのは事実。
余談だが、そんな彼女と僕が電話で話したときに、
「あんたすごいなぁ。わたしと電話で話してて、
こんなに相槌打ったり、話しを返してくる人初めてやわ。」
と言われたのは後日談。
さらに余談だが、だからと言って僕達の間に愛は生まれていない。
話しは戻るが、僕はそんな梢ちゃんに電話した。
それはもう、すごい勢いで電話した。
ニワトリが先か、タマゴが先かってくらいの勢いで電話した。
「ちょっとヤバイって。
和也の家に4tトラックが突っ込んで家が全壊したらしいで。
和也の家って国道沿いやん。それで居眠りしてたトラックが突っ込んでき
たんやって。ケガ人は出てないらしいんやけど、
それで和也は家なしの生活が当分続くらしいで。」
17歳にしてみれば衝撃的な話しでして、いつもマシンガントークの
梢ちゃんもさすがに言葉を失っていた。
「そうなんや…。
じゃあ一也君に電話してみるね。教えてくれてありがとう。」
そう言って彼女は電話を切った。
そしてすぐ、僕の隣で携帯が鳴る。
そして、僕の隣で和也は電話を取った。
「もしもし、和也君。
あんた、家がトラックに突っ込まれて全壊したらしいやん。
大丈夫なん?」
「あ~、全然大丈夫やで。
だってそれ嘘やし。」
僕の隣で和也は勢い良く答えた。
もう全部嘘。
だって今日はエイプリルフール。
外はこれでもかってくらいの真っ青な空。
僕はこれでもかってくらいの真っ赤な嘘。
たぶん、梢ちゃんもこれでもかってくらいに真っ赤になって怒ってたと思う。
そんな17歳の4月1日。
今年の4月1日は早々に企画が失敗。
もうちょっとリアリティー持たせたウソ付けば良かったなぁと反省。
ちなみに今年のウソの内容は重たすぎるので書けません。